【2017】今年の10冊

特に誰にも求められているわけではないのだけれど、今年読んだ本のなかでベスト10を紹介する。
今年手に取った本は100冊程度で、読んだといえるのは70冊くらいだろうと思う。

あげている本については必ず何らかの示唆を含み、知的好奇心をくすぐられる羽目になったものばかりだ。
どのような表象を得たかということは、その本自体を読むことでしかわからないと思われるため、もし興味がもてれば表紙くらいは眺めてもいいのではないかと思う。


人工知能の核心 (NHK出版新書 511)

人工知能の核心 (NHK出版新書 511)


人工知能の今について「羽生善治」が書いた本である。
人工知能を取り巻く環境がどうであるかということよりも、人工知能を取り巻く羽生善治について非常に興味深く読めた。

ぼくは科学史を良く読むのだが、ニュートンライプニッツのやり取りやそれぞれの天才性についての記述を読む時に気分が高揚する。例えるなら、やっと悟空がついた!(ナッパ)感だ。
現代にスーパーサイヤ人が実在するのである。そういう雰囲気を感じることができるという点で良書だ。


生命、エネルギー、進化

生命、エネルギー、進化


2016年に和訳された、生化学者による生命とエネルギーと進化についての本だ。
高校の生物程度の知識がなければ難解であり、知識があったとしても難解である。

生命の起源については諸説あるだろうが、文章から感じられる誠実さと、異常といっていいほど熱意により説得力が増す。
難解さよる諦めに読みたさが先立つ。

熱意ある著者の検討を目にする機会を与えてくれたビル・ゲイツ氏には感謝したい。


量子論はなぜわかりにくいのか 「粒子と波動の二重性」の謎を解く (知の扉)

量子論はなぜわかりにくいのか 「粒子と波動の二重性」の謎を解く (知の扉)


数式はないが、量子論系の非学術図書を数冊読んだ程度の人間にとってはところどころ難解であるが、量子論の雰囲気がやっとつかめた気になれる1冊。

読者はハイゼンベルグに対して何らかの感情を持つと思われ、本書読後にあつまり、ハイゼンベルグについて語らうだけでも楽しいものになるであろう。僕には本書を読んだ知り合いはいないため、一人でニヤニヤすることしかできない。


困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)

困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)


すごく楽しそうな天才物理学者のエッセイ集である。
世の中にはこいつは幸せそうだなと感じる人がいる。僕の場合はインターネットで出会った少しバカっぽいところがあるが、ゲームはそこそこうまく、特に誰からも嫌われず、では何が幸せそうに見えるのかと言われると、いまいちうまく伝えられそうにない。
しいて言ってしまうと、幸せそうに見えるから幸せそうに見えるのだ、というトートロジーに陥る。

ファンマンさんは、そういう幸せそうに見えて、幸せなんだろうなと思える天才物理学者だ。
エッセイは、楽しいばかりの話ではないのだけれども、ボンゴを叩き、絵を書きながら物理学する天才にぼくは憧れざるを得ない。


すごい物理学講義

すごい物理学講義


邦題はひどくバカげているが、物理学における最新の諸説を教えてくれる本。

相対論や量子論は、まったく感覚的でない。「わからない」ことの比喩として「量子論」をつかってもいいほどだ。
量子論は実に量子論的である。この命題は真であろう。

ともかくわかろうがわかるまいが、世界はそのようにできているらしいと学者が言っている。
であれば、知るべきだろう。

また、海外ドラマにビッグバン★セオリーという番組があるが、番組視聴前の事前知識を得るための書としてベストである。


進化の存在証明

進化の存在証明


ドーキンスの本。進化論についてだ。
おそらくこれより有名な、利己的な遺伝子も読んだのだけれど個人的にはこちらのほうが良かった。
進化論の概観を説明しながら度々宗教に対してぼやくドーキンスの雰囲気を堪能できるかと思う。
やはり本は著者の人となりが垣間見れる方が楽しいと思える。

と書いたものの、ドーキンス性よりも進化論の概観を明晰に説明している点、これが良かった。


プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?

プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?


言語学に関する書籍で、内容はぼやっとしか覚えていないのだけれど、下にあげているレトリックと人生と対で読んで、なんだが良かった気がしている。

タイトルと表紙がかっこういいのでそれだけでも良い。


レトリックと人生

レトリックと人生


言語学についての知識はなかったんだけれども、ファストアンドスローを読む流れで言語学的なことに興味をひかれ手に取った。言語はもちろんのこと「人間」に対して示唆が多分に含まれているように感じる。

英語や国語をやると同時に言語学か暗号についての科目があれば世の中は円滑であろうと思った。



本の最後にラッセルの哲学入門の引用があり、それを見て哲学入門を読むきっかけとなった。
ラッセルに導いてくれたという点で、今年2番目によい本であると言える。


哲学入門 (ちくま学芸文庫)

哲学入門 (ちくま学芸文庫)


2017ベスト本だ。
著者のバートランド・ラッセルについては、科学史を読む中やウィトゲンシュタイン周りの情報で名前だけは見かけていたが、その重要性について完全な見落としていた。各書籍はラッセルの名前を太字にしてわかりやすくする必要がある。

ラッセルは、デカルト的誠実さとファインマン的ユーモアを兼ね備えた知の巨人だ。
分析哲学の祖らしく、誠実で回りくどいとも思える論理性と、実際は違うかもしれないがいい加減な感じ(もちろんファインマン的な意味でだ)で愛嬌のある文章が真に知性的であると思えた。
最も天才な人は誰かと問われた時にラッセルの名前は挙げないが、最も知性的な人はだれかと問われれば間違いなくラッセルの名を挙げる。

詳しい内容は本で確認してもらうとして、神は数学者か?でも引用された文章を引用したい。

それゆえ、哲学の価値に関する議論は次のようにまとめて良いだろう。問いに対して明確な解答を得るために哲学を学ぶのではない。なぜなら、明確な回答は概して、それが正しいということを知り得ないようなものだからである。むしろ問いそのものを目的として哲学を学ぶのである。なぜならそれらの問いは、「何がありうるか」に関する考えを押し広げ、知的想像力を豊かにし、多面的な考察から心を閉ざしてしまう独断的な確信を減らすからだ。そして何より、哲学が観想する宇宙の偉大さを通じて、心もまた偉大になり、心にとってもっともよいものである宇宙とひとつになれるからである。




本を読むこととビールをのむこと、特にビールを飲みながら本を読むことは、生きるのを楽しむことと同じだ。
知的に満足がいくと人生の具合がいい。知識の地平を広げ視座を増やせば、もっと遠くへ行けるし、もっと遠くが見えるだろう。なにより楽しいに違いない。